自由のための月額213円

現代人が失うと特に困るものの一つは、Gmailのアカウントではないだろうか。

メールとして使うだけなら、まだ影響は限定的かもしれない。しかし、Gmailをさまざまなサービスの登録や本人確認に使っている場合、Googleアカウントが停止されると、芋づる式に多くのものへアクセスできなくなる可能性がある。

家族の写真、取引先の連絡先、各種Webサービスのアカウント、オンラインバンキングに関する通知。

電話番号認証や本人確認によって取り戻せるものもあるだろうが、実際にアカウントが使えなくなったときの混乱は、かなり大きいはずだ。

無料で便利なサービスは、永遠に便利とは限らない

アカウント停止以外に考えておきたいのが、サービスそのものの悪化だ。

最初は純粋に便利だったサービスが、十分なシェアを獲得したあと、徐々に使いにくくなっていく例は珍しくない。

個人的に最近それを感じたのが、Kindle端末のおすすめ表示である。

以前は、ホーム画面に表示されるおすすめの本を消せたと記憶している。しかし、いつの間にかおすすめ表示を完全には消せなくなり、自分がまったく興味のない本が延々と表示されるようになった。

もちろん、営利企業としては当然の判断なのだと思う。

利用者に本を読んでもらうだけでなく、次の本を買ってもらったほうが利益になるからだ。

Kindle本を読み終えたあと、すぐに別の本をおすすめされるのも同じだろう。

しかし、利用者にとって本当に良い読書体験を考えるなら、新しい本を買わせるだけでなく、数年前に読んだ本をもう一度読むよう提案してもよいのではないか。

少し話がそれたが、言いたいことは単純だ。

営利企業が利益のために行う最適化と、サービスを利用する個人の幸福は、必ずしも一致しない。

何も考えずにサービスを使い続けていると、企業の利益になる方向へ、生活や時間の使い方、さらには人生そのものまで誘導されてしまう可能性がある。

Gmailへの依存を減らす

最近になって、そのことを強く意識するようになった。

そこで、特定の企業に生活のすべてを預けないため、意識的に利用するサービスを分散させることにした。

その一つとして検討したのが、Gmailに代わるメールアドレスである。

検討案① Yahoo!メールやiCloudメール

まず考えたのは、Yahoo!メールやiCloudメールを使う方法だ。

Gmailから別のサービスへ移ることで、Googleへの依存は減らせる。

しかし、企業の規模やサービス内容に違いはあっても、結局は別の企業にメールアドレスを預けることになる。

言い方は悪いが、魂を握られる相手が変わるだけともいえる。

検討案② 自分でメールサーバーを運用する

次に考えたのが、自宅でメールサーバーを構築する方法だ。

セルフホストをしている人間としては、一度は試してみたくなる。

しかし、少し調べただけでも、現在のメールサーバー運用はかなり難しいことが分かった。

正しく設定していても迷惑メールとして判定されたり、送信元の評価を維持する必要があったりする。サーバーを立てれば終わりという話ではないらしい。

時間があるときに実験として試すのは面白そうだが、日常的に使う重要なメールアドレスを任せるには、あまり現実的ではないと判断した。

検討案③ Proton Mail

海外で「脱Google」の選択肢としてよく名前が挙がるのが、Proton Mailだ。

私はまだ本格的に使ったことはないが、プライバシーを重視するサービスとしての評判は悪くなさそうだ。

ただし、Proton Mailも民間企業が運営するサービスである。

現在の方針が良くても、将来的に料金やサービス内容が変わる可能性はゼロではない。

Google以外の選択肢を持つという意味では有力だが、根本的な問題がすべて解決するわけではない。

検討案④ 有料のメールサービス

次に考えたのが、有料のメールサービスを契約する方法だ。

例えば「さくらのメールボックス」は、比較的安い料金で利用できる。

無料サービスと違い、利用者が料金を支払うため、広告やデータ活用以外の部分で事業が成り立つ。無料メールよりも、利用者と運営会社の利害が一致しやすいように思える。

かなり有力な選択肢だった。

しかし、メールサービスから提供されたアドレスをそのまま使う場合、サービスが終了すると、そのメールアドレスも失うことになる。

それでは、Gmailから移行する意味が薄い。

サービス終了の可能性だけを考えるなら、規模の大きいGoogleを使い続けたほうが安全かもしれない。

検討案⑤ 独自ドメインと有料メールサービス

最終的に選んだのが、独自ドメインと有料メールサービスを組み合わせる方法だ。

重要なのは、メールサーバーそのものではなく、自分で管理する独自ドメインをメールアドレスとして使うことである。

例えば、現在契約しているメールサービスが終了しても、独自ドメインを維持していれば、別のメールサービスへ移行できる。

メールアドレスを変える必要はない。

サーバーは借りる。しかし、住所にあたるドメインは自分で持つ。

これなら、自分でメールサーバーを運用するほどの手間をかけずに、特定のメールサービスへの依存を減らせる。

維持費は月額約213円

私が選んだ構成の費用は、次のとおりだ。

独自ドメインはCloudflare Registrarで取得し、維持費は年間約10ドル。

メールサーバーには「さくらのメールボックス」を利用し、3年契約で3,168円。

1ドルを150円として計算すると、独自ドメインは年間約1,500円になる。

メールサーバーは、1年あたり1,056円。

合計すると、年間の維持費は約2,556円。月額にすると、約213円である。

Gmailなら無料で利用できるものに、毎月約213円を支払う。

そう考えると、少し微妙に感じるかもしれない。

しかし、これは自由のための費用だと思うことにした。

Googleの戦略はすごい

あらためて考えると、Googleの戦略は本当にすごい。

検索、メール、写真、カレンダー、地図、ブラウザ、スマートフォン、動画。

おそらく多くの人が、ゆりかごから墓場までGoogleのサービスに依存することになる。

一人の利用者に無料でメールサーバーを提供する費用など、その人の生活全体をGoogleのサービス圏内に置くことによって得られる利益と比べれば、安いものなのだろう。

無料だから使う。

便利だから使い続ける。

そして、いつの間にか、なくては生活できないものになる。

私は、その状態から少しだけ距離を取るために、令和の時代にあえてメールサーバーを契約することにした。

月額約213円。

あなたは安いと思うだろうか。

それとも、高いと思うだろうか。